食物繊維とはヒトの消化酵素では分解できない、植物細胞壁のセルロースや海藻類から抽出される寒天やアラギン酸など食品中の難消化性成分の総称です。食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とがあります。食物繊維(ダイエタリーファイバー)は、かつての栄養学では、からだの構成成分やエネルギー源にならないため、役に立たない食べ物のかすとして扱われてきました。しかし、食物繊維がいわゆる成人病によい効果をもたらすことが解明されるにつれて、重要性が広く認められるようになりました。従来の日本人の食生活では、食物繊維の不足は考えられませんでした。穀類や野菜、豆 、いも、海藻などを多く食ベ、動物性脂肪の摂取は少なかったためです。ところが、食生 活がしだいに欧米化し、精製原料を用いた加工食品が増加するにつれて動物性脂肪の摂取がふえ、穀類や豆、いもなど食物繊維源となる食品の摂取が減って、日本でも成人病にかかる人がふえてきました。死亡率の上位をがん、心臓病などの成人病が占めるに及んで、 食物繊維の重要性が強く認識されるようになったのです。食物繊維は五大栄養素(糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)に続く「第六の栄養素」と呼ばれるようになりました。 食物繊維は口中での咀嚼回数をふやし、睡液の分泌量を増して、満腹感を得やすくする・消化管のはたらきを活発にする(粘性のある食物繊維ほど小腸に分泌される膵液と胆汁の液量および酵素量を多くする)・ブドウ糖の吸収速度をゆるやかにし、食後の急速な血糖値の上昇を防ぐ・コレステロールの吸収を抑制する・胆汁酸を吸着し、体外に排泄させる・腸内でナトリウムイオンとカリウムイオンの交換反応により、食塩のナトリウムを排泄させる・腸管内で栄養素が拡散するのを防ぎ、栄養素の吸収を緩慢にする・便をやわらかくしてかさをふやすことで腸の蠕動を活発にし、内容物をすみやかに移動させる・発がん性物質など腸内の有害物質の排出を促進する・腸内の有用菌群をふやし、腸内環境を改善する、というような作用を持ちます。食物繊維をあまり多量にとると、下痢をひきおこすことがあります。こうなると、水分ととも に体内のミネラルまでが排出されてしまい、ミネラルの欠乏症を招きやすいので注意が必要です。現代人には、食物繊維が不足することによっておこるさまざまな症状や病気を抱える人が多くなっています。これらの症状や病気にかからないようにするために、あるいは症状を改善するためには、当然のことながら食物繊維の摂取が有効です。食物繊維が効果を発揮するのは、虫歯、肥満、便秘から、腸の疾患(大腸がん、憩室症、虫垂炎など)、その他の成人病(高血圧、糖尿病、心疾患、高コレステロール血症、コレステロール胆石症 、動脈硬化など)まで広範囲にわたり、食物繊維をとることによって、バランスの悪い食品摂取を正常 に戻すと考えればよいでしょう。大人だけでなく、子供に増えている肥満や成人病、虫歯なども、食物繊維の不足が一因と考えられています。食物繊維は、穀類、いも、豆、野菜、果実、海藻、きのこなどに多く含まれます。外皮 、殻などを含む食品に多く、精製された食品に少ないのが待徴です。また、肉、魚、卵な ど動物性タンパク源にはあまり含まれていません。食物繊維の生理作用は、種類によって 違いがあるので、多種類の食品からとるのがコツです。食物繊維が添加された製品も各種市販されていますが、これらに頼りすぎるのは考えもの。ほかの栄養素とのバランスを考えて、一般の食品を中心にとるようにしましょう。メニューは洋風より和風のほうが、食物繊維は多くなります。特に根菜類や乾物、海藻などをたっぷり使った「おふくろの味」は、食物繊維の宝庫です。摂取量の推移を見ると、主食となる穀類からの摂取が減っているのが目立ちます。ご飯を玄米や麦入りにかえる、パンは全粒粉やライ麦粉を使ったものを選ぶなど、食物繊維を考えた主食の充実をはかることで、かなりの量がカバーできます。食物繊維が足りているかどうかは、便通が目安になります。l〜2日に1回、150g程度の排便があり、便がかたくなくやわらかすぎないバナナ状なら、まず大丈夫です。
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